三流上司は｢とにかくやれ｣と怒鳴り､嫌われる｡では一流は?…若手社員に好かれる上司の"心を掴むひと言"

若手社員と仕事をする際、上司はどんなことに気をつけたらいいのか。『上司が足りない　管理職候補をどう育てるか』（日本能率協会マネジメントセンター）から、若い世代の部下への指示の出し方や、成長を後押しする接し方などについて紹介する――。
※本稿は、仲真良広、高橋睦史『上司が足りない　管理職候補をどう育てるか』（日本能率協会マネジメントセンター）の一部を再編集したものです。
■若手社員は「自分の視点を尊重」してもらいたい
最近の若い世代の特徴として、「タイパ（タイムパフォーマンス、時間対効果）を重視する」「納得感を大切にする」「承認欲求が強い」などが挙げられます。若手社員の特徴に合わせ、仕事やキャリアにおけるニーズに応えることで、やる気を引き出しましょう。伴走のポイントをまとめます。
近年、管理職候補の若手は、「上から指示を出すリーダー」ではなく「自分たちの視点を尊重してくれるリーダー」を上司に望む傾向が強いです。そのため、上司には「若手社員の成長をサポートする」「メンバーと一緒に考える」姿勢が大切です。これは、若手社員がなりたい管理職像でもあります。
上下関係にとらわれず、上司が若手の意見やアイデアに耳を傾ければ、若手社員は「自分の存在価値を認めてもらった」と感じるはずです。若手社員との間での1on1を設けるなど、「人となりを知る時間」を作り、良い意味で「しっかり見てくれている」と若手社員が安心できる工夫も有効です。
“どのようなマネジメントを「されたい」か”を尋ねたアンケート結果（図表1）からも、「上から指示」より、「チームの雰囲気を良くしてほしい」「長所を褒めて伸ばしてほしい」など、令和の「理想の管理職像」が垣間見られます。
■｢なぜやるのか｣を伝えた上で、｢意見を聞きたい｣｢一緒に考えてほしい｣
今の若手社員は、意図が不明確な指示を嫌う傾向にあります。その状態で、上司や先輩から「これをやれ」「常識だから」と言われても、言われた本人が「何のための指示なのか？」について納得できない場合は、動きません。
そのため、上司は単なる指示ではなく、「業務の背景や目的」「実施することで、どんな将来が拓けるのか」「キャリア上の位置づけ」などが伝わることを意識して説明しましょう。若手社員は仕事の目的・意図を理解し、自発的に取り組みやすくなります。
言い換え例：「とにかくやれ」→「なぜやるのか」
NG

「売上データをもとに、新製品会議用の資料を作って」
OK

「既存製品が頭打ちなので、新製品を開発・販売したい。次の会議は、既存顧客向けの新製品か、新しい顧客層を狙うべきかが、議論の大きなテーマになる。売上データをもとに、○○さんの分析結果や意見を聞きたい。もし今回やってみて面白いと感じたら、新製品について引き続き一緒に考えてほしい」

■｢要領を得ない説明｣はNG､“ポイント”を端的に伝えて“納得感”を与える
気になることをいつでも検索できるスマートフォンや、気の合う仲間とつながるSNSに慣れ親しむ若者たちは、必要な情報を手際よく効率的にキャッチすることを好みます。彼らが職場で求めるのは、長い説明や指示ではなく、要点をふまえた端的な説明・指示です。
また、普段からネットでさまざまな情報を入手しているため、多くの知識を持っているように見えるのも、この世代の特徴です。そのため、ネットなどによる情報収集が先行し、若手社員が「自分の方が知っている」「それは違うだろう」と上司の指示に疑問を感じることも、しばしばあるでしょう。
しかし、実際に仕事で使うには、一般的な知識よりも深い知識の方が求められるため、WHYを深掘りして分析し、自分で可能性を探らなければなりません。そのため、WHYの深め方や新たな切り口についてヒントを出すなどの、上司のサポートが必要です。
若手社員の業務へのモチベーションを上げるには、納得感を与えるのが不可欠です。具体例やデータを用いて、上司が「なぜこの指示を出したのか」を短時間で伝えられれば納得感を与えやすいでしょう。
言い換え例：ポイントを端的に伝え、納得感を与える
NG

「そろそろ、△△社に様子伺いも兼ねて、顔を出した方が良さそうだ。今、○○君に任せているけど、たまには上司である私が行かないと……。先方の担当に会えればいいのだけど……。できたら課長、部長にも会いたいな。日程調整をお願いできるかな？　都合が合えば、君も来る？」
OK

「△△社とのプロジェクト開始から1カ月が経過し、そろそろ進捗にずれが生じているかもしれない。○○君から状況は聞いているけど、先方の担当・課長・部長と直接話をして課題を共有したいので、今月末までに先ほどの3名に、1時間のアポをとってほしい。先方のオフィスで対面で話したい」

■「小さな挑戦」を与え、失敗・成功体験を積んでもらう
「管理職になりたくない理由」として、「自分にできるかが不安」「責任が重い」と答える人も多いのが現状です。
「失敗したら困る」「ミスを咎(とが)められたくない」という不安から、若手社員が萎縮することもしばしばあります。中には、失敗した自分を責めて、挑戦することに対して恐怖感を持つ人もいます。しかし、変化の激しい現代において、ビジネスに正解はありません。正解を求めて慎重になりすぎて動けないよりは、失敗したとしても経験から学ぶ方が、前進に結びつきます。
まずは、「小さな挑戦」から始められる環境を整えてはいかがでしょうか。「小さな失敗」をしてもOKの環境で管理職候補が挑戦し、失敗から学び、次の挑戦につなげるのです。例えば、規模の小さいプロジェクトを任せてみる、社外向けイベントの前に社内向けイベントで試してみる、などが考えられます。
挑戦後には、必ず振り返りや面談などを行い、フィードバックの機会を持ちましょう。一緒に「なぜ失敗／成功したか」の分析をしつつ、挑戦したこと自体を周囲がポジティブに評価するのがポイントです。
このように、まずは小さく任せ、失敗・成功体験を積むことで、人生における仕事の位置づけも変化していくかもしれません。自己効力感、仲間から共感を得る喜び、熱中する楽しさなどを得ることで、ビジネスパーソンとして成長するのです。
■一度任せたら細かく口を出さない
若手社員が小さな挑戦に臨む際、上司はどのようにサポートすれば良いのでしょうか。
理想は、一度任せると決めたら細かく口を出さず、相談を受ければ関与するという姿勢で見守るイメージです。
ただ、小さな失敗はOKと言っても、予期される課題や困難については事前に情報を与え、乗り切るヒントを伝えておくとスムーズです。例えば、上司の経験や具体例をまじえて「この会議では、いつも同じ質問が寄せられるので、○○の最新データを準備しておく」などが考えられます。
とはいえ、人は、失敗してこそ多くを学びます。あまり上司が先回りするのも良くない場合もありますが、どのような段取りを好むかは会社によって異なります。考え方は2つあります。
①「人は、失敗から学ぶものなので、失敗OK」だが、致命的な失敗は回避

→先に「致命的な失敗」を回避できるよう説明する。
②失敗してもOKの範囲・枠組みで、任せる

→例えば、予算規模の小さなプロジェクト、後から挽回できる案件などを任せる。
■“責任ある立場”を経験させるのもいい
テキストや理論で学ぶだけでなく、「何が大切なのか」「どうすればうまくいくのか」を、実際の業務シーンに置き換えて説明すると、若手社員は「自分ならこうする」と理解しやすいでしょう。こうして、若手社員が成功経験を重ねれば、もっと大きな挑戦への自信が芽生えます。
【例：一日店長の経験】
あるカフェレストランでの話。ホールスタッフの中から店長候補を育てたいという経営陣の方針により、ホールスタッフA子さんが「一日店長」を務めた。
〈ホールスタッフA子さんの振り返り〉

「いつもは、自分がサービスするお客様のことばかりを考えていましたが、一日店長をしてみると、お店全体のことを考えねばなりませんでした。
例えば、
・売上を上げるためにはどうすればいいか
ランチの時間にお客様を長くお待たせすると、お客様は他店に行ってしまいます。
お待たせしないようにするには、客席回転率を上げなければいけない。もっと迅速に食事を提供しないといけないし、動けるホールスタッフの配置も考え直したいです。
・スタッフのシフトや人件費をどのように考えるか
ピーク時は、もっとスタッフ数を増やしたかったです。ピーク時を過ぎれば、ホールスタッフの人数は少なくて済みます。でも、昼の1時間だけスタッフ数を増やすのは難しいですし、人件費もかかります。
客席回転率、利益、スタッフの配置やケア、売上を上げるための工夫……。
いずれも、ホールスタッフをしているときには考えなかったことです。なんとなく、人件費、仕入れ原価や客席回転率が大切だとは知っていましたが、その重要性がようやく理解できました。本当に店長を務めるとしたら、さらに、スタッフの採用や広告戦略、地域との付き合いなども、自分で考えなければならないのでしょうね。
一日店長として責任ある立場を経験して、見る世界が変わりました。これからは、ほかの飲食店に入ったら、よく観察してみます。良いところは当店でも取り入れてみたいです」
管理職は、その人独自の経験や価値観によって、部下や企業の未来に大きな影響を与える、やりがいのある仕事です。管理職の一言や関わり方の工夫で、部下の自走を支援し、成長を促すことができ、人生を変えることもあるのです。今回ご紹介した実践例を、部下への声かけや支援を職場でもぜひ試してみてください。

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仲真 良広（なかま・よしひろ）

Hajimari執行役員

2006年外資系ヘッドハンティンググループに入社。24歳の2008年2月に独立し、株式会社グローアップを設立。2013年9月には学生の就活状況をシェアできる日本初のスカウト型ウェブサービス「キミスカ」をリリース。2022年より、現職。「メンタープロパートナーズ」「人事プロパートナーズ」「ファイナンスプロパートナーズ」、新卒採用支「intee」管掌。

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高橋 睦史（たかはし・あつし）

Hajimari社員

立教大学経営学部卒業後、人材紹介企業JAC Recruitmentへ入社。転職エージェントとして、2度の全社表彰。2020年11月株式会社Hajimariに入社し、転職支援の新規事業を立ち上げ。現役経営層の社外メンターを紹介する「メンタープロパートナーズ」の新規事業立ち上げと事業責任者を歴任。人事フリーランス紹介の「人事プロパートナーズ」マネージャーを兼務。同社にてMVP／VPと2度の全社表彰。

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（Hajimari執行役員 仲真 良広、Hajimari社員 高橋 睦史）